早めの相談と的確なアドバイスを!(矢口コーディネーター)

 栃木県よろず支援拠点のコーディネーターをしております矢口です。
 私が担当する相談内容の多くは、経営相談から人生相談に移行する傾向にあり、多くは高齢者の社長さんたちです。今後の人生を語り合うのであれば、ぜひ私をご指名ください。

1.コロナ禍とその影響

 今回のコロナ禍騒動は多くの企業にいろいろな意味で影響を及ぼしている。特に安易に借入が可能だったということもあって、多くの企業が借入を増やした。これらの借入の返済が始まり資金繰りに悩む企業が増加している。

 当拠点においても資金繰りの相談や新たな借入についての相談が増加している。また、廃業だけに絞ってみても昨年2倍の相談件数となっており、事業拡大や設備投資などの前向きな相談から、運転資金などの資金繰り相談へのシフトが増加している。

 これら経営難から生じる相談の増加に伴い、その特徴として相談するタイミングが遅いため、的確なアドバイスを施すのに手遅れの状態であることが挙げられる。すなわち経営状態が悪化してからの相談であることから、改善策に選択の余地が少なく、相談企業に適したアドバイスができないでいる。

 私は主に廃業の相談を主体に受けていることから、この点の実感を述べてみたいと思う。廃業相談の場合、多くの相談者は初めから廃業ありきで来る方はほとんどいない。できれば改善して安定経営を目指すことを目標にしている。

 しかし、実態は資産を上回る債務の状態、すなわち債務超過の企業が多い。しかも、その負債内容は金融機関からの借り入れ、買掛金や未払金、そして税金や社会保険の遅延や滞納である。そのため、新たな借り入れやリスケの実行で対応しようとする社長も少なくはない。

2.危機感を抱かない

 ただ、話を伺ううちに、その負債の実態は相談者が考えているよりもはるかに危機的状況にあるにもかかわらず、安易な気持ちで相談に見える社長も多い。例えば、借入額が年間売上高と同額かその前後という企業相談もあるが、何とかなるだろうとの思いでやってくる。

 仮に年商と同額の有利子負債があったとする。今後10年間で返済するとなると、毎年年商の10%前後が返済原資、すなわち償却前利益の確保が必要となる。これだけでも健全企業(無借金)と比べれば元金返済の負担と、さらに支払利息の負担が加わることになる。すなわち健全企業と比べ対売上高で10~12%の負担増となる。

 債務超過の多くの企業は、本業で赤字になっているケースが多く、ここにさらなる返済金が加わるとどうなるのか、むしろ今後の経営継続が危ぶまれるだろう。

 債務超過の企業相談が多いが、そもそも債務超過とは「会社のプラスの資産より、マイナスの資産(負債)が大きくなっている状態」なので、自社以外から調達した資金等によって経営を行っているという窮境な状態での経営なのである。

 2019年度版中小企業白書によると、債務超過の企業の割合は30%を超えているとある。廃業相談を主に担当している立場から思うと、債務超過は黄色の点滅信号と言えるのではないか。注意して渡る、場合によっては渡るのをやめることも必要なのだ。

3.債務超過、資金ショートの意味

 また、法的にみても債務超過は支払不能と並んで破産手続開始要件の一つとなっている。すなわち、いつ倒産してもおかしくない状態にあると判断している。ただし、破産開始の申し立てが行われない限り破産することはないので、早めの手立てが重要となる。 さらに、債務超過よりもさらに厳しいのが資金ショートである。人間で言えば血液の流れが止まることであり、死への入り口となる。そこで資金の流れを管理する資金繰り表の作成をして資金管理をする必要があるが、現実にはこの管理を実行している企業は少ないのが実態である。

4.アドバイス側のスタンスとは

 このような状況下の相談者に対し、どのようなアドバイスが適切であるのか、判断に迷うこともあるに違いない。私の場合は、現状を踏まえた結論を正確かつ明確に伝えることを心掛けている。

 例えば曖昧にする、あるいは頑張れと励み、そして改善方法をやたらと並べて説明している姿を見ると、これが却ってマイナス効果を生み、相談者の立場や状況を悪化させることになるのではないのかと思うことがある。

 言いにくいことも言わなくてはならない。そして、少しでも早く結論を出し、早めの対応策を考えれば良いのである。

 売上拡大や収益アップなど前向きな相談の場合は、夢と希望の中での対策を考えていくので、相談時のタイミングは廃業相談よりも急ぐ必要はない。しかし、廃業相談は、タイミングを失うと致命的な状態になる可能性がある。

 最近の廃業相談は、相談件数が倍増した上で、さらにその結果が破産という法的措置とならざるを得ないケースが半数近くある。早めに相談してもらえば…と、悔やまれる案件も少なくはない。 特に社長個人に関わる連帯保証人に関する問題などが廃業手続き上、障壁となって進まないというケースもある。あるいは自宅の土地や建物を残して廃業したい、破産だけは避けたいなどの希望もあり、相談者各自の事情は異なってくるが破産という最悪の状態を避けたいという気持ちは強い。それだけに相談者に最も適した方法を検討するにも、ある程度の時間を必要とするのである。

5.早めの相談が解決につながる

 また、改善計画書を作成し、リスケを実行し、その間に改善するといったオーソドックスな手法も多いが、債務超過でありながら社長個人の会社への貸付で返済し、その後放棄するといった手法もかなりの数に上る。これなども青色欠損金や期限切れ欠損金の活用などが前提となることから、検討するためにも時間を要することになる。  さらに、時間的な余裕があれば、債務超過であっても遊休資産の売却、土地や建物、あるいは設備・備品等の売却や在庫の処分なども検討ができ、その上で金融機関等への返済を検討することもできる。

6.今、何をやるべきか

 早めの相談の必要性を述べてきたが、なぜ相談ができないのかの検討をしてみよう。第一に挙げられるのは、危機的状態にあるという気づきを持たせるということである。多くのアドバイザーは廃業という言葉からくるイメージで廃業相談を避けてしまう傾向にある。

 あるいは具体的に対応するためのノウハウや経験がないという点も挙げることができる。また、できれば改善策や再チャレンジのようなプラスイメージでのアドバイスで事を収めようとする傾向がある。そのため相談者に真の状態を知らしめることができず、さらなる悪化に進んでしまうことになる。

 したがって、アドバイザーが自信を持って再建できるとの確信を持たない以上、廃業も視野に入れたアドバイスも必要であるのではないだろうか。その方が相談者のためにもなり、また一刻でも早くこのことに対する対応策によって重症化せずに済む可能性が高いと思われる。

 必ずしも廃業を薦める訳ではないが、場合によっては「廃業」という言葉も含めて伝えることも必要であろう。その根底には、「あくまでも、これ以上相談者を苦しめてはならない」という思いがあるからである。

 真剣かつ誠意を持った相談であれならば、たとえ相談者に一時的な嫌悪感を抱く内容であっても必ず理解してもらえると確信する。

 第二に挙げたいのは会社の健康診断のすすめである。人間であるならば1年に1回の定期的な健康診断を実施している人達は数多く存在するのに、会社(企業)が定期的な診断を行っている姿はほとんど見受けられない。

 その理由として、①会社の健康診断を行うとする習慣がない、②どこで、誰に診断するのかわからない、③診断したかといって、その効果はあるのか・・・といった疑問があるからかも知れない。

 このような疑問に対し、今こそ「よろず支援拠点」がこの受け皿となって早期診断、病状指摘、そして早期治療という重症化を防ぐ役割を担うべきである。

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