ここが辛いよ、田舎の個人事業主。(齋藤コーディネーター)

皆さま、こんにちは。栃木県よろず支援拠点コーディネーターの齋藤です。

 主に紙媒体を扱ったグラフィックデザイン、ロゴマーク、看板など各種広告デザインを担当しています。

 20歳でデザイン制作に関わる仕事に就いてから今年でもう30年、個人事業主として創業し13年が経ちました。今回は私が創業に向けて一歩踏みだすきっかけとなったエピソードを楽しくノンフィクションでお伝えします。

1.まさかの3億円

 今から25年前(当時25歳)。睡眠時間を削りながら印刷会社の制作部で働いていた私は、会社に通勤しなくても自宅で仕事ができないものかと未来の働き方を思い描いていました。当時のネット環境はISDNというアナログ回線が主流でしたがデジタル回線に変わりつつある時期で、もしデジタル回線が自宅に繋がるのであれば「家でも仕事ができるのでは?」と、すでに現在のテレワークを想像していました。

 仮にデジタル回線を自宅に引くとしたら、どれくらいのお金がかかるのか気になり通信会社に問い合わせたところ「齋藤さんの家は田舎なので、3億円くらいかかりますね。」と言われ、自宅での創業は断念せざるおえない時代でした。

2.お地蔵さん

 その後、20代後半で印刷会社を退職し、イベント会社を経て広告代理店に数年勤務してからのお話です。年齢も30代後半になる頃、リーマンショック以降は広告の仕事も不況に陥りました。日中はデザイン業から離れ新規開拓の営業を行い、夕方から深夜にかけてデザイン業に戻るといった一人二役の辛い日々。睡眠サイクルを90分にするとスッキリ眠れるというテレビ番組の情報を信じながら何とか睡眠を確保し、精神的にもクタクタになるまで働いていました。

 そんな冬のある日、出勤途中のラジオから「創業塾」の案内が流れてきたのです。「そうか、創業もいいな…。でも家族もいるし失敗したらどうしよう…。」という不安もあって、なかなか一歩踏み出せない私でしたが、ある日の帰りにゾッとする出来事が起きたのです。 仕事が片付いたのが深夜2時過ぎ。暗闇の中、会社の駐車場に停めてあった車の鍵を開けて乗り込もうとした時、ドアの下にグレーのマグカップのようなものが落ちていたのです。「なぜこんなところにマグカップが?」と思い、その取手を掴んで持ち上げてみたところ、なんとそれは小柄なお地蔵さんの頭…。取手と思って掴んだ箇所はお地蔵さんの耳でした…とても冷たい耳でした。これはきっとお地蔵さんが何らかのメッセージを私に伝えに来たに違いないと悟り、勇気を出して独立する決意をしたのです。

3.いざ創業塾へ

 その後、創業の知識が全く無い私はラジオで聞いた「創業塾」の受付に電話をし、宇都宮商工会議所主催の「創業塾」に通いました。当時のメンバーは40名程度だったかと思います。修了後も当時のメンバーから連絡があり、いくつかお仕事を頂けた事で、とても助かりました。これから創業したい方にも「創業塾」のようなカリキュラムは是非お勧めです!

4.田舎あるある

 元々農家の長男坊として生まれたこともあり、自宅を拠点として働くことを前提に開業した私も、周りに自分の働き方を理解されるまで最初は苦労したものです。1日の始まりは、頭をスッキリさせるために飼っていた犬の散歩をすることからでした。

 散歩をしていると近所のおじさんたちも声をかけてくれるのですが、「なんだい、今日は仕事休みけ?」とか、「まさか無職じゃあんめぇ?」とか。親戚の叔父さんからは「お前は何?会社辞めたっつうじゃねぇか( ; ; )は〜…」とため息。

 しかし、こんな田舎でもデザイン業は成立するという強い想いで、堂々と散歩は続けました。(今でも認められているのか不安ですけど。) ある日、そんな事を仕事から帰ってきた妻に話すと、「そんなの見返してやれっ!デザイナーなんだから外車乗れっ!」と、意味不明なアドバイス。いまだに私がどんな仕事をしているのか関心のない寅年の妻は、丑年の私に対し常に強気でした。

5.繋がり

 私が創業した年に「東日本大震災」が起きました。その影響で、広告の仕事はしばらく無くなりましたが、一緒に活動を共にできた地元の消防団の仲間たち、久しぶりに偶然あった同級生、近隣で起業されている同世代の経営者など、いろんな場所でいろんな人との接点を持つことで、点と点が繋がり今に至っています。

 個人事業主は孤独な時間も多く、独りになると「このままで大丈夫だろうか、来月は仕事があるのか…」と悪い事を考えがちですが、そんな孤独に負けない強いメンタルも重要です。

 もし、これから創業をお考えの方、創業したけど不安を抱えている方などおりましたら、いつでも「栃木県よろず支援拠点」に連絡をください。よろず支援拠点のコーディネーターはみんな、会社に馴染めなかった訳ありメンバーの集団なので!(笑)

 最後に、もしあなたにも普段あり得ないような不思議な出来事があったときは、一歩踏み出すタイミングなのかも知れませんね…。