栃木県よろず支援拠点コーディネーターに聞く 第3回 矢口 季男 コーディネーター

 栃木県よろず支援拠点のコーディネーターをしております矢口です。
 私が担当する相談内容の多くは、経営相談から人生相談に移行する傾向にあり、多くは高齢者の社長さんたちです。今後の人生を語り合うのであれば、ぜひ私をご指名ください。

 今回は、コロナ禍で増加する廃業について私なりの考えを書きましたのでぜひご一読ください。

1.最近の廃業の動向

 最近の倒産・廃業数東京リサーチのデータ(図1)でみると、2015年が約3.7万件に対し2020年は5.7万件と増加している。最近は国の手厚い支援によって減少傾向にあるが、今後の増加傾向は避けられないだろう。また帝国バンクの調査(2021年)によると休廃業・解散した企業のうち黒字で資産超過の状態は全体の16%で休廃業・解散を行った企業の代表者年齢の平均は70.3歳である。このことを背景に廃業の原因を「事業承継がスムーズに進まなかった」と結論づけている傾向にある。

 しかし、最近の経営相談を通じて感じることは、確かに事業承継の理由も大きいが、経営者の高齢化に伴い将来の経営を展望した時の不安や希望が持てないとの理由の方が多いように思える。赤字にならない前に・・・、あるいは傷が浅いうちに決断して処理をしようという判断である。
 図2は中小企業白書のデータであるが、廃業の可能性を感じてからの行動として「特に対応は行わなかった」が40%弱である。このことから分かるように「手を打たない」、あるいは「どのように手を打つかがわからない」・・・などの理由が背景にあるのではないだろうか。
 この手遅れの結果、自力での廃業処理が難しくなり、やむをえず破産など法的処理に進まざるを得ない結果となる。

 一方、コロナ禍による新規融資や返済期限の延長など手厚い金融政策によって持ちこたえている企業も多いが、そろそろ限界を感じている経営者も少なくはないのではないか。これら予備軍ともいえる経営者にとって、今まさに自社の近い将来を考えるチャンスと捉え、自社の経営、資金繰り、将来性などについての棚卸を行い、今後の方向性を明確にすることを検討してみてはどうだろうか。

2.自社の役割を考えてみる

 約40年前に発行された「会社の寿命」(日経ビジネス)では、当時は会社の寿命は平均30年という説を唱えていた。2021年、東京リサーチと帝国バンクが発表したデータによると前者は23.3年、後者は37.5年と発表している。
 また、東京商工リサーチの2018年の調査によると、平均寿命年数は、製造業34年、卸売業27年、運輸業26年、農・林・漁・鉱業25年、建設業24年、小売業24年、不動産業24年、サービス業18年、情報通信業18年、金融・保険業12年となっており、製造業から先端的サービス業へと短縮化しているのがわかる。

 そこで重要なのは、自社の現在の経営状態が成長期か、成熟期か、または衰退期に入っているのかの検討が重要となる。社会の状況や背景を十分に認識し、当社の役割はまだ必要としているのか、それとも終わりに近づいているのか・・・などを判断して結論を導くことである。特にIT技術の革新的発展と、それに伴う流通や物流の変化、国内だけではなく海外との競合などの現状をよく理解することが重要である。

 その結果、継続していくとの結果であれば全力を投入していけばよく、また危機感を抱いたなら、次なるステップを考えてみたらどうか。もし、廃業する気持ちとなったなら、これ以上、頑張る必要はないのではないのか。次の人生を考えてみる機会として捉え、残された人生を精一杯、楽しく、そして充実した生活を味わうべきである。

3.自社の経営状態を読み取る

 最近の起業・創業の動きをみると、国を挙げての積極的な取り組み、そして若年層の挑戦する意気込みの強さなどがみられる。一方、昭和30 ~ 40年代の高度成長期は「もの不足」などの背景もあり、特に小売業、サービス業、製造業などが相次いで起業された。当時、起業した多くは、社会が必要する背景があり、それぞれの役割や機能を発揮し貢献してきた。しかし、前述したようにその役割が終わった企業も少なくはない。
 廃業に際しての第一の問題点は金融機関などからの借入過多、税金や未払金などの滞納である。特に法人の場合は、個人で肩代わりしようとすると個人からの借入となり、また放棄すれば債務免除益が発生することになる。
 これらの処理が面倒、かつ難しいことから自ら考えているようなスムーズな廃業に進まないのである。しかし、ケースバイケースであり、その会社の財務状態や特に債務の状態によっては法的処理を避けられるケースも多い。
 倒産に至った理由の多くは、危機的な予兆があってもそのままにし、最悪の状態になって初めて行動に移すというパターンである。また、良い相談というのは、危機的状況を予知したら自社のライフサイクルがどの位置にあるのかを判断し、衰退期に入ったと感じたならば、まずは相談してみる。そのうえで廃業せず継続できるという判断であれば改善すればよく、財務状態が悪化していれば具体的な廃業方法を考えるとか、あるいは即廃業に取りかかるなど、早めの相談であれば多くの選択肢が考えられる。

4.廃業の意思決定は経営戦略の一環である

 さて、私ども「栃木県よろず支援拠点」では弁護士も含め28人で相談に応じているが、私の担当は法的処理を避けた廃業支援である。残念ながら法的処理(弁護士につなげた案件)に至った事案は数多くあるが、できれば法的処理を避けたいとの意気込みで相談に応じている。法的処理に至った理由の多くが、相談時期の遅れが招いた結果なのである。だから、早期の相談が必要なのである。
 廃業という選択は立派な経営戦略の一環である。経営戦略というと積極的に前を向いて前進していくという姿だけを浮かべるかもしれないが、危険と感じたならば一歩後退あるいは全面後退も必要なのである。窮境状態から抜けだすには、再チャレンジするやり直しの行動と全面的に撤退する廃業の道があり、どちらを選択するのも経営戦略の一環として捉えた行動なのである。
 過去の相談事例では、社長個人資産の売却、在庫の処分、買掛金の圧縮、親戚・知人からの借入で負債を処理、あるいは法人を解散し負債を個人に移行して継続、さらに個人版民事再生法を利用して住宅を維持確保できたなどなどの例もある。
 正しい廃業(法的処理ではなく自主整理)には時間と労力が必要となる。また経営から離れた人生相談の分野に入ることもある。無料で何回でも相談に応じることが可能なよろず支援拠点の活用こそが廃業相談に最も適した場所でもある。


※本稿は、公益財団法人栃木県産業振興センターが発行する情報誌「産業情報とちぎ」7月号に掲載された内容です。