異次元の金融緩和政策と国土強靭化計画等の大型財政出動にも関わらず、日本経済は上向かない。肝心な消費が増えないのが主因である。消費が上向かない原因は、将来の生活設計を描くことができない現役層が、消費を控え、貯蓄しているからだ。
私はバブル景気の絶頂期に社会人となり、1年後には総量規制発動されてバブル経済は終焉に向かうが、その後も余韻の残るなか20代の前半戦を過ごした。私も含めて世の中の当時の日本人の消費に対する意識は今では考えられないものだった。入社2年目で、年収を超える新車を買い、毎年モデルチェンジするスキー用具も躊躇なく買い揃えた。年収を超える消費をしているので、常に高い手数料の信販会社へのクレジット払いがあった。倹約して貯蓄するなどとは全く思いもつかなかった。そのうち、給料も上がり貯金もできるようになると根拠もなく思っていた・・・
いや根拠がなかったわけではなかった。当時は根拠があったのだ、奇跡の日本経済のシンボルとも言われた終身雇用と年功序列型賃金である。就職しさえすれば、余程の失敗をしなければ定年まで勤められ、給料も上がっていくことが約束されていた。
日本固有のこの雇用制度を消滅させたのは、何だったのか・・・!?
1986年に制定された労働者派遣法であったのではないか。労働者派遣制度は、かつて手配師や請負師と言った戦後廃止された労働者供給事業の復活になると危惧され、制定当初、単純労働には適用外だった。ほぼ高給取りの専門職に限定されていたのだ。ほとんどの職場では終身雇用と年功序列は維持されていた。
この2つの制度の息の根を止めたのは、2004年の完全自由化だった。単純労働を含め全業種が対象となった。消費の主体となる大多数の現役労働者が長期的な将来設計を立てられなくなったのである。
30有余年にもおよび日本経済が低迷を続ける原因を、硬直的企業経営システムや内向きの所得再分配システムなどの構造問題にあるとする見解があるが、その中味を精査すると解ったようで解らない。
先日、テスラのイーロン・マスクCEOが「日本は存在しなくなる」と発言して話題となった。その根拠は単純明快で、出生率の極端な低下である。今の出生率の趨勢が続けば、人口減少が進み最後には世界から日本人がいなくなる。
ライフプランをつくることが難しい非正規社員は結婚にポジティブになれないだろう。ひょっとすると労働者派遣法は亡国の危機を招いた原因の一つにもなったかもしれない。