【矢口先生シリーズ第2回】なぜ、社長の責任は重いのか

栃木県よろず支援拠点 コーディネーター 矢口 季男


前回もご紹介しました矢口先生のコラム・シリーズ第2回をお贈りいたします。今回は「社長の力量」について書いておられます。精読するのに時間がかかりましたが、大変感銘を受けました。多くの方に読んでいただきたいコラムです。:栃木県よろず支援拠点 スタッフ 鳥井


従業員は社長の背中をみている。従業員からみれば、社長はその組織体のトップに立つ長であり、社長に考え方や手腕によって会社の将来が左右されるほどの権限と責任を認めているからである。従業員は社長の言動のひとこと一言が将来の行方を方向づける力があることを認め常に会社の将来に対し希望や憂いを抱いている。だから、業界の動向を探ったり、時にはボーナスや昇給、昇格を同僚や同業他社と比較し、良し悪しを比べてみたりする。従業員は常に自社や競合他社、そして業界の向までアンテナを高くして収集しているのである。

また、中小企業の社長は50%を超える筆頭株主の場合が多く、その会社の所有者である。このことは、会社で起きる良いことも悪いことも、その原因と結果についてはすべて社長の責任となる。株式会社の株主は有限責任であるので自ら出資した範囲以内での責任しかないことになる。しかし、社長の実態はどうだろうか。例えば、借金を有すれば社長の自宅などは担保に取られ、さらに連帯保証人になるのが一般的である。当然、借金を返すことができなければ自宅などは競売にかけられ失うことになり、会社で起きるすべての責任を負うことになるのである。

その責任の裏返しとして社長は権限を持つ。責任と権限は常に対となってつきまとい、会社経営のすべてに該当する。それゆえ、社長の責任は最も重く、同時に会社の方向性の舵取りに全責任を持つことになる。社長の指揮命令は絶対であり、過ちは命取りにもなる。社長の肩には従業員とその家族、そして取引先や地域社会などにも責任を負うことになる。

 社長に問題があれば、従業員や取引先にも影響が波及し不幸な状況に追い込まれることになる。社長の舵取りの良し悪しは多くの人たちの生活にも影響し、ひいては雇用や税金などを通して社会全体の将来にも影響する。だから社長の考え方や資質は重要であり、そのことに対して十分な認識をもって行動しなければならない。失敗は許されないのであり、常に安定経営を持続させていかねばならない責任と能力が必要となる。

 特に小規模企業の多くは、仮に社長の資質に問題があるかといって半数以上の株式を所有している社長を辞めさせる訳にはいかない。また、社長の座を自ら降りて他人を社長にするケースはほとんどみられない。会社の業績が悪化しても社長の座にしがみついて離れないのが一般的な姿となっている。

 以上の点を踏まえれば、会社の良し悪しはすべて社長にかかっており、経営に対する心構えや社長自身の資質、そして経営知識や技術など、社長として備えるべき人格(人間性)とスキル(知識、技術等)の両面が備わっていなければならない。従業員を代えることはができるが社長を代えることはできない。会社が窮境状態の陥った時、その原因を辿っていくと必ず社長のところに突き当たる。これらのことを考慮した時、いかに社長の役割と責任が重要であるかがわかるだろう。

窮境状態のある社長の言葉に共通するものがあり、それは現在の「窮境の原因は私(社長)以外のところある」と考えている。例えば、社外の外部環境では景気のせい、競合会社のせい、政治のせいであり、内部環境の企業内においては営業部長、製造部長、あるいは資金繰り担当の財務部長となる。でもよく考えて欲しい、仮に社長以外に原因があるとしたら、その解決方法は社長以外での解決しかないのである。社長以外の解決法とは、会社を取り巻く環境が変わること、すなわち他力本願に頼らなければ解決できないことになる。

どんな不景気でも、競合にさらされていても、政治が悪くても、気象条件や交通アクセスが悪くても元気で繁盛し儲かっている会社があることは何を意味するのか。全国の会社のうち約70~80%は赤字であるといわれている。しかし、20~30%は黒字で儲かっているのである。これらの会社の共通点に社長の考え方や資質、すなわち社長が備えなければならない考え方や資質にかかっている。逆にみると、中小企業の多くは社長の力量によって赤字か黒字かの岐路に立たされているといっても過言ではない。

内部環境(会社内)をみれば、従業員の能力ややる気、設備の状態、生産性、品質・技術など多くの要素の良し悪しによって赤字、あるいは黒字に変わってしまう可能性はある。実際に営業部門が悪く受注が取れないのは詰まるところ営業部長の能力にあるかもしれないし、生産性を上げることができないのは製造部門の責任者である製造部長の責任かもしれない。でも、よく考えて欲しい。誰が営業部長、製造部長を任命したのか、つまるところ任命権を持つ社長にあるのではないか。

すべて原因は社長にあることを認識しなければ、窮境からの脱出は容易ではない。要は自分(社長)以外に原因があったとしたら、自分以外のところで解決されなければいつまで経ってもよくならないことになる。事実、景気が悪くその影響で業績の悪化を招くことはあっても、景気が良くなるまで待つ以外に手を打てないとしたら、経営は他力本願になってしまい良くなるのを待つのが改善策となる。

もし、あなたの会社が窮境状態にあるのなら、「すべての原因は自分(社長)にある」ということの認識から出発しなければならない。例えば、直接の原因は景気にあったとしても、その不景気の状態から抜け出すための努力や工夫が必要になるのであり、その方策は社長がやらなくて誰がやるのか。他のところも直接の原因があっても、自らの力とやる気で窮境状態から抜け出さなくてはならず、それを率先してやり遂げるのが社長の力と心構えなのである。

したがって、自ら招いた原因はなくても自分以外の力などで解決されるのを待つのではなく、どんな窮境の状態にあろうが、その原因は自分(社長)にあるのだという強い信念をもって果敢に挑んでいかねばならない。

第3回はこちらから→【矢口先生シリーズ第3回】自然現象から経営を学ぶ