2024年4月の労働法改正について(池田コーディネーター)

 こんにちは。栃木県よろず支援拠点コーディネーターの池田です。来年4月の労働法改正についてご紹介させていただきます。毎年のことですが、10月に最低賃金が改定され、栃木県の最低賃金は954円となりました。

各都道府県で39円から47円引き上げられ、全国の加重平均額は前年比43円増の1,004円となり、物価高を背景に初の1,000円を超え、引き上げ額も過去最高となりました。

最低賃金の引き上げは、ただ基本給が上がるだけではなく、被扶養者にとってみれば130万円の枠を超えてしまうということから、社会保険上の扶養の範囲内で働くべく労働時間数を減らすという傾向がみられ、事業主の方々は、パートタイマーが働けることができる時間が制限されることから、新たなパートタイマーを雇用しなければならなくなり、採用の悪循環に陥ってしまっています。

そして、半年経過後の4月になると、労働関係法令の法改正が相次ぎます。

2023年度の法改正を振り返りますと、月60時間超の時間外労働の法定割増賃金率の引き上げが話題になりました。時間外労働の抑制の一環として、60時間超の労働時間に対しては5割増しの割増賃金率を加えることになります。

当社は、外国人労働者を多く扱う農業がクライアント先に多く持っているためか、個人的には賃金のデジタル払いはもう少し大きな話題になるのかなと思っていましたが、圧倒的に認知度が低い結果となりました。

2024年度においては、概ね20以上の労働関係法令が改正することとなります。もちろん、すべてにおいて事業場に直結するとは限りませんが、それでも一部は事業主の皆様方には知っておくべき情報となります。 その中でも、大きな法改正は2つ挙げられ、一つは、建設業と運送業における時間外労働の上限規制、もう一つは労働条件明示の変更です。

                 時間外労働の上限規制

 時間外労働の上限規制は、2019年に法施行され、中小企業には2020年4月1日から適用され始めました。但し、建設業や運送業等一部の業種においては、法施行より5年間の猶予期間を設けられ、これらの上限規制が2024年4月1日から適用されます。

この2024年問題を図示すると以下のとおりとなります。

・建設業

・運送業

※厚生労働省 千葉労働局資料より抜粋

・建設業と運送業が抱える課題

時間外労働の上限規制はさておいて、各々の業界の課題を確認してみましょう。

建設業界の課題

  • 労働者の高齢化
  • 長時間労働
  • 短期化する工期設定

運送業界の課題

  • ドライバー減
  • 労働時間の上限規制による諸々の制約
  • 物流コスト

これらの課題は、解決しないで放置すると、業界のイメージ悪化に直結することになり、人材の確保に課題が残ることになります。

そして、そもそも、上限規制がかかるということは、業界的に過重労働が常態的に行われたことであり、健康障害につながるといわれています。

【過労死ライン】
発症前1か月間で約100時間を超える時間外労働
発症前2~6か月間で1か月当たり約80時間を超える時間外労働
 
【業務に起因する精神障害の基準】
発病直前の1か月間で約160時間以上の時間外労働
発病直前の3週間で約120時間以上の時間外労働
発病直前の2か月連続で1か月当たり約120時間以上の時間外労働
発病直前の3か月連続で1か月当たり約100時間以上の時間外労働 など
事業者の方々は、労働生産性の向上と、事業の経営改善を行わないと、課題が残りやすくなります。

・課題の解決に向けて

 改めて、法律で定められている労働時間をチェックすると、以下の通りになります。

  • 原則として1日8時間、1週間に40時間(法定労働時間)を超えて労働させてはいけない
  • 毎週1日の休日か、4週間を通じて4日以上の休日を与えなければいけない
  • 労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合には1時間以上の休憩を与えなければいけない

・課題解決のために

①週休2日制の確保

国土交通省の「適正な工期設定等のためのガイドライン」に記載がありますが、不当な短い工期で発注は受けずに、適正な工期を算出して請負契約を締結する必要があります。受注側や発注側で協力し、工期設定をすることで、過重労働の抑制、労災防止につながります。

これは、物流業界にも言えることで、過重労働の抑制、労災防止につなげるためには、荷主や消費者にも2024年の法改正を理解してもらう必要はあります。ネット販売でよく見られがちな「翌日到着」の文言ですが、人材確保できずに続けると、ドライバーや物流事業者にとってみれば、無理な働き方になります。

遅くとも、2024年以降は、建設作業員やドライバーには、週休2日制の確保をしてもらい、女性や高齢者にも働きやすい職場環境に向かってもらえれば、安定した人材確保につながります。

②適正な労働時間の管理

2019年より、「労働時間の客観的把握」が義務化とされました。タイムカードやICカード、パソコンの使用による労働時間の記録など、客観的な情報を用いての管理が義務付けられているので、ITツールによる管理が必要になります。

建設業界は、日給制が多く、支払いも週払いである会社も未だに見受けられ、その影響もあり、労働時間の管理ではなく労働日の管理のみで、具体的には、出面表の出勤日に対して労働者の押印で管理されているところも散見されます。

運送業界は、日報とタコグラフの突合による管理となっており、停車時間が休憩による停車なのか、いわゆるヤード待ちによる停車なのかの把握が曖昧で、日報とタコグラフでは見えてこない実情があります。

最近は、昔と違い、クラウドで管理できる勤怠ツールや、1人あたり300円程度でつかえる安い勤怠ツールもあります。スマートフォンでアプリをインストールすることにより、事業場に出勤しなくても管理できるツールもふえました。こうした、勤怠ツールの導入も、労働時間の見える化につながり、自己的に抑制にもなります。

                 労働条件の明示の変更

 労働条件の明示については、労基法15条に「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。」としています。その中で、絶対的記載事項で、以下の事項を必ず明示するよう決められています。

  1. 労働契約の期間に関する事項
  2. 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項(有期労働契約のみ)
  3. 就業場所、従事すべき業務に関する事項
  4. 始業・終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇などに関する事項
  5. 賃金の決定、計算・支払いの方法、賃金の締切り・支払いの時期、昇給に関する事項
  6. 退職に関する事項(解雇の事由を含む)

 上記の3項にある、就業場所と業務内容に、変更の範囲を記す必要が出てきました。  全ての労働契約の締結と有期労働契約の更新のタイミングごとに、「雇い入れ直後」の就業場所・業務の内容に加え、これらの「変更の範囲」についても明示が必要になります。

記載例

就業の場所(雇い入れ直後)宇都宮市○○町 宇都宮本社 (変更の範囲)佐野支店、東京支店、その他会社の定める営業所
従事すべき 業務内容(雇い入れ直後)販売 (変更の範囲)企画、広告

そのほか、有期雇用者に対しては、以下の明示が求められます。

  • 更新上限の有無と内容
  • 無期転換申込機会
  • 無期転換後の労働条件

おわりに

2024年問題の解決は、人材不足解決につながります。これをピンチと捉えずに、意識と組織が変わるチャンスとして捉えていただき、会社が残る為に何が必要かを今考えるべきです。