1.廃業に関する現状
最近、日増しに廃業相談が増えている。この背景にはいくつかの原因があるが、第一に従来の経営感覚や手法では経営が太刀打ちできない状態に陥ったことが挙げられ、そこに資金環境が悪化してきたことが追い打ちをかけた。 特に業績悪化に加え、借入金の負担が大きく、資金繰りが悪化しているという状態での相談である。またリスケ(返済に伴う条件変更)を実施している企業も多く、しかもその対応策の目途が立たず、その条件のままで時間が経過しているという姿は多くみられる。自力では解決困難な状態にある企業は少なくなく、廃業の予備軍として増加しているのが現状である。
最近の廃業相談の傾向として、破産寸前での相談と破産は避けられるが時間を要する二つのパターンがある。前者は、税務署や社会保険の滞納による差し押さえの通告などがあり、明日あるいは2~3日後をどうするかという差し迫った相談である。一方、時間を要する相談とは、自主的廃業を目指しているが資金不足のため、資産売却や社長や身内から借りれて負債を何とか整理したいといったパターンである。 資金繰り悪化など資金に目途がつかず、時間的余裕がない場合はほとんどが破産となり、弁護士にお願いする形となる。しかし、ここでも問題が発生する。それは弁護士費用や裁判所への予納金であるが、このような窮境状態の会社が資金的に余裕はなく、この資金を準備することができず前に進まないという現実である。破産をするにもお金が必要であることをしっかりと認識する必要がある。実際にこの資金が準備できずに立ち止まっている会社は、私の経験では廃業のうち全体の3~4割に挙がっている。
2.廃業相談は「早め」に行うのが鍵
廃業相談は前述したように時間が勝負の分かれ目になることが多々起きている。多くの相談のケースでは瀕死の重傷になってから切羽詰まった相談に入る。したがって、残された選択肢はほとんどなく、ただ破産への道、破産の説明や弁護士の紹介など最後の段階の話となってしまう。
廃業を選択するとしても、できれば法的処置である破産の道は避けたいのが私たちの本音であり、また相談者の多くもそれを望んでいる。だから廃業に係る相談は早めにして欲しいと願うのである。例えば、自社の経営が厳しくなると、多くの企業は経営改善を目指すことになるが、この時点で廃業も頭の片隅に置いて検討していただきたいと思う。例え改善の道を歩むことになっても、窮境状態が続けばこの時点で廃業の検討ができるのである。
できれば、経営に陰りが見えてきたら同時に改善の道、M&Aの道、そして廃業の道も併せて検討していただきたいと願っている。過去の実態をみると、経営改善やM&Aの道半ばで力尽き、廃業に追い込まれたという例は少なくない。この場合でも手遅れな状態になってからの相談なので破産の道しかないという状況になっているケースが多い。
3.破産を避けるための原則とは
自主的な廃業への道と法的な破産の道との分かれ目は、負債の状態にあり負債が完全に整理できれば自主的な廃業を行うことができるが、負債の整理ができなければ破産の道を選択せざるを得ないことになる。一般的に金融機関からの借入返済、買掛金や未払金(税金や社会保険など)の支払いなどができない場合は、破産の道を選ばなくてはならないことになる。
破産を避けるには負債の整理が前提条件となり、多くの場合は金融機関への返済が困難な場合に起きる。例えば保証協会付きの借入であっても金融機関への返済ができなければ代位弁済となり、今度は保証協会が代わって当社の債権者となる。 したがって、破産の場合は資産超過であっても整理はできないことになり、あくまでも債務超過であることが破産手続きの絶対条件となる。
4.自主的廃業の条件とは
逆に自主的な廃業(ソフトランディング)の条件とは負債が完全に整理できることである。簡単にいえば自社の資産の範囲内で負債が整理できることであり、負債を整理してもまだ資産が残っていれば、これを株主に分配して整理が終了となる。
一般的には次の流れとなる(株式会社の場合)。
・終了日の決定
↓
・廃業の知らせ
↓
・解散決議と清算人選任(株主総会)
↓
・解散登記と清算人登記
↓ 解散日から2週間以内
・債権者への官報公告・通知
↓ 公告期間は2か月以上
・決算書類の作成と株主総会の承認
↓
・解散確定申告
↓
・資産と負債の清算
↓
・残余財産の分配
↓
・株主総会での決算報告書の承認
↓
・清算結了登記 承認後2週間以内
5.廃業時での問題点
① 連帯保証人
一般的に中小企業のケースでは社長などが連帯保証人となっている場合が多く、法人が破産した場合の債務は連帯保証人も弁済する義務が生じる。当然に返済できない残余分については個人で弁済しなければならず、返済する資金的な余裕があれば問題はないが、そうでなければ社長個人の名義である土地、家屋などは競売にかけられ弁済のための資金づくりとなる。
② 返済不能
前述したように会社の資産を処分して返済ができれば問題はないが、返済ができない多くの会社は社長個人やその家族、あるいは役員などから借入れて負債を整理するケースが多くみられる。
そのため、今度は会社が社長などから新たな借入れをすることになる。しかし会社を清算するには今度は社長などに返済しなければ清算ができない。
そこで社長などからの借入を放棄してもらい清算に入ることになるが、ここで新たな問題が発生する。放棄額に対する免除益という利益が発生し税金の対象となるからである。ただ、会社を清算する場合は青色欠損金や期限切れ欠損金の活用も検討できるので悲観することはない。この点については後日改めて説明する。
③ 税金や社会保険の滞納
次に税金や健康保険、年金の滞納による危機が生じている会社もかなりある。しかも最近の傾向としてこれらの管轄している税務署や市・県などの取り立てもかなり厳しくなっている。ここにきてかなり多いのが税務署や社会保険の滞納による差し押さえの相談である。 特に納付期日を約束したにもかかわらず未払を数回続けると差し押さえの通知が来るケースは少なくない。特に銀行口座が差し押さえられた場合には資金が枯渇すると同時に取引先も警戒し、経営の継続は難しくなる。
④ 社長への貸付
社長への貸付も廃業時の整理に時間がかかる。社長への貸付は明確な貸付以外にも仮払いや使途不明金などが振り替えられるケースも多く、本人は身に覚えがないといったケースもある。社長個人が資金的に余裕があれば問題はないが、社長個人が会社が借入れるというケースはほとんどの場合特別な理由から発生している。したがって、これまた清算時には多くの労力が必要となる。
⑤ 社長からの借入
会社に対する社長から貸し付けは、ほとんどの会社で見受けられる。しかも、会社の資金繰りが厳しくなると返済ができず、そのまま繰り越され、その行為が習慣的になって「チリが積もれば山となる」の諺通りに多大の金額に膨れ上がってしまうのである。 このような状態になっているケースは会社そのものの資金繰りが厳しくなっており、返済の見込みがないという状態にある。これを解消するには貸付金の放棄、資本金への振替(DES)、社長の給料を下げてその分、会社から返済してもらうなどの方法もあるが、これまた早期対応策が重要となる。