最近の創業に対する支援策は国、県をはじめ市町村、あるいは商工会、会議所など多くの機関等で積極的に取り組んでいる。一方、その逆の廃業に関しては、全くと言っていいほど支援策はない。確かに創業は将来に夢や希望があり、雇用を生み出し、税収にも結びつき、さらに事業を通して社会に貢献するという期待に溢れている。
しかし、廃業はこれらのメリットはなく、むしろ雇用や税収、社会への貢献もないという状態にある。このような背景からか廃業に対する支援策はほぼ皆無である。廃業相談に関わる機会が多い私としては、この状態に疑問を感じている。
第一に廃業支援は利益が生まれない企業の支援ではあるが、逆に支援をすることでマイナスの金額を阻止する役割がある。すなわち、そのまま悪化になるのを待つのであれば最終的には赤字が増えるだけで、破産ともなればその負債の金額すべが金融機関や取引さ先などにダメージを与えることになる。究極的には国家の損である。これを早めに阻止できればマイナスとなる金額も少額で済み、国家の損も少ない範囲で済むことになる。
第二に廃業支援を積極的に行う機関やコンサルタントは少ないということである。廃業するような企業は赤字会社や債務超過の企業が多く、資金的にも厳しい状態にある。ゆえにコンサル会社も積極的に廃業支援を行う会社は少なく、また公の機関も廃業専門に携るところは皆無であるといっても過言ではない。
第三として、コロナ禍の影響やゼロゼロ融資の返済が始まり、急速に資金繰りや財務状態の悪化が進み、廃業も含めた対応策などが差し迫っている企業も少なくはない。しかし、この窮境状態にあるのにもかかわらず相談先や相談相手がいないというのが現実である。毎日の資金繰りが厳しい状況にあり、新たな借入もできずに借入金の返済に追いやられ、しかも税金や社会保険の督促に見舞われている企業も数多くある。挙句の果ては年金を会社に入れても資金繰りが回らないという状態の企業もある。
このような状態の中で毎日が困窮して過ごすことになり、精神的にも相当ダメージを受けている経営者もかなり多いのが現実であろう。
以上のような背景を踏まえて廃業相談の意義と重要性がクローズアップしているといっても過言ではない。この相談業務はビジネスとしては成り立つことは難しく、その意味からも「よろず支援拠点」のような機関が積極的に担うことが必要なのではないだろうか。特に無料で何回でも相談に応じることができるという特徴を活かし、広く知らしめることで経営に困っている方や精神的にダメージを受けている人たちに対し、救いの手を察し述べることが今求められているのではないだろうか。
むしろ早めの相談に入ることで傷の浅いうちに処置し、破産などの状態を招かないような仕組みを構築することが必要である。
次に最近の相談の特徴について述べてみたい。当よろず支援拠点での廃業相談のうち、自主的な廃業と破産等の法的な手段の割合は40%対60%となっている。意外と破産が多いのは相談のタイミングが遅く、重症状態での相談が多いからともいえよう。もう少し早めの相談であれば軽傷で済むケースであり、自主的な廃業に持ち込めたという相談が多いのも特徴の一つである。
また、前述したように相談者の精神的負担がかなり大きいのもこの相談の特徴である。先が読めず、倒産というイメージと葛藤している姿であるが、完全に迷い道に入り込み、ここから抜け出そうとしている姿に似ている。はじめて経験する未知の世界であるだけに不安と悩みにさいなまれているのである。
次に多くの相談で共通な悩みについて述べたい。
最近、相談に応じていながら問題にぶつかり先に進まないケースがある。それは「破産するにもお金が必要である」ということである。相談が遅いため最終的な処置として破産の道しかなく、弁護士や裁判所の手続きに費用がかかり、この費用が準備できないというケースである。窮境状態にある企業には余分な資金はなく、直ちに準備しろといっても困難となる。
破産の手続きに入る段階でこのような状態に陥る企業は3割から4割に上がる。そのため破産の手続きができず放置され苦難の状態を味わう。だから早めの相談で破産を避けるということが、いかに重要かを認識しなければならない。
また、意外と多いのが会社に対し社長をはじめ役員等からの貸付があり、その処理の仕方である。社長などから借入れている企業は多いが、会社の財務状態はひっ迫しているので返済できる資金はなく、結局そのまま放置されている。この場合、自主的廃業となり清算が進まず、最終的は放棄するというケースである。ただ、このようなケースでは放棄することで会社側には債務免除益が発生し税金対策が必要となるのである。
このような状態にある企業は債務超過の場合が多く、青色欠損金や期限切れ欠損金が生じている。この欠損金を使って債務免除益と相殺するという方法もある。
財務的な問題も重要であるが、もう一つ見逃せないのが社長の資質、特に人間性の問題である。財務的に恵まれている企業であっても社長に問題があれば必ず窮境状態に追い込まれることは必至であろう。このような会社は従業員や取引先などに恵まれて今日まで歩んできたが、何れは厳しい状態に追い込まれる。特に中小規模の会社は社長やその身内が株主であり、社長の地位は安定している。それだけに社長を代えることはできず、業績が泥沼に入り廃業するのを待つしかないという企業も見受けられる。 最後に当よろず支援拠点は早くから廃業相談に応じていたことから、最近では金融機関をはじめ、商工会、商工会議所、市や町などからも紹介を受けている。多くの関係機関等が認知し始め相談数が増加しているのが現状であり、一人でも多くの相談者にお役に立ちたいと考えている。