今回は最近のよろず支援拠点における廃業相談の一部について5事例を掲げたいと思います。5事例の内訳は破産が1件、M&Aが1件、そして残りの3件は自主的廃業です。
事例-1 コンクリート製品製造業の例
当社はコンクリート製品の製造業者である。年商5億円の売上高が最近では3.6億円まで減少、特に直近期の決算では当期利益が▲7,400万円と大きく落ち込んだ。このため将来を鑑み、廃業する方向で検討中である。
しかし、廃業するのに最も大きな問題点として負債の整理がある。負債総額約2.6億円、うち金融機関からの借入が約1.1億円、身内から約8,000万円、さらに振出手形や未払金が約7,000万円となっている。一方、固定資産はここ数年間未償却である。不良債権(売掛金)も抱え、さらに棚卸資産も簿価価値を大きく下回る。金融機関への返済は自社所有の土地の売却を考えている。
そこで業績をみながら1~2年後を目標に自主的廃業を目指すことにした。ただ、身内からの借金は放棄することに決定するも、それに見合うだけの欠損金がないため、直近期は大きな欠損を覚悟で決算に臨んだ。その目的は身内からの借入放棄を行うため欠損金を大幅に増やすことである。ただ積極的に赤字をつくることではなく、償却や不良債権処理、在庫等の過大評価をやめて決算した結果、直近期の欠損金は約5400万円となり青色欠損金で相殺ができることになった。
今回の廃業に際しての課題は、①破産は避ける ②身内からの借入金の放棄に際しての債務免除益対策(税金対策) ③従業員の再就職などが挙げられる。
現在、当計画と並行してM&Aによる譲受先についても検討しており、最終的な判断は早くても1年以内となりそうである。
事例-2 金型製作業の例
当社は金型設計・製作会社、最近になり取引先企業からの受注が激減し、経営状態が厳しくなってきた。栃木県事業承継・引継ぎセンターにM&Aを依頼するも良い返事がもらえず、今後の方向性について相談となったもの。
負債額は約3,000万円、この負債額が整理できれば破産を回避して自主的廃業ができる。負債の内訳は、金融機関からが約1,200万円、社長からが約1,800万円である。金融機関に返済する資金は社長個人や身内から調達してなんとか返済できる見込みはある。問題は社長個人からの借入であり、放棄すれば債務免除益による税金の発生となる。できるだけ破産は避けたいとの強い要望があった。当社の決算書を精査すると、青色欠損金は約1,200万円、繰越欠損金は約1,000万円である。この繰越欠損金を利用すれば債務免除益による税金対策が可能となる。この手法を用いて自主的な廃業を目指し、解散・清算の手続きから自主的廃業の運びとなった。
事例-3 自動車整備業の例
当社は自動車整備業、先代社長が急死、それを受けて娘さん(三女)が社長となる。しかし、社長に就任した時点で会社は窮境状態通る機関からの借入はリスケ中、社会保険は未納で差し押さえ通達、従業員は相次いで退社という状況であった。社の状態を知る余裕もなく、姉達からの要請で止むなく引き受けるも、この時点で実質休業状態であった。相談を受け、決算書等を精査した結果、事業継続は無理との判断から破産の道を選ぶ。工場は自社所有、土地は親戚からの借地、資産らしきものは全くなく、破産するにもその資金(弁護士費用と裁判所への予納金)はなく、この資金をどのようにして準備するかが当面の課題である。
借入金は約3,000万円、未払い金や買掛金を含めた負債総額は約4,000万円、しかも従業員に対する給与の未払もある。
まず、破産のための資金づくりを検討、そこで土地所有者を呼んで事情を説明、所有者はこの土地を以前から売却する気持であったが、工場があるため売却は断念していた。会社を破産すれば、土地は売却できることを理由に破産に必要な資金約200万円を借りることにした。
娘さんは未婚、2人の姉は所帯を持っていることから父の財産と会社を相続、社長の個人保証を引き継いだため本人の破産も視野に入れて検討する。 幸い、個人保証は1金融機関のみで、自宅が担保には入っていたため、自宅を売却し、金融機関と親戚からの借り入れを返済することで解決可能と判断。現在は弁護士のもと、裁判所に提出す書類等を作成中である。
事例-4 和洋菓子製造販売業の例
当社は観光地に位置する和洋菓子製造販売業であり、観光客相手の菓子販売と広く全国の道の駅やサービスリアなどに納入している。売上減少と利益確保ができず、資金繰りが悪化した。
相談当初は、資金繰り表作成やPL計画作成を支援しながら再建を目指していた。ところが相談後の約半年経って社長は急死、とりあえず、何とか再建しようとしたが、資金は尽きて日増しに悪化する。
金融機関に融資依頼するもすべて断られる。前社長が同時に栃木県事業承継・引継ぎセンターにM&Aの申し入れをするが良い返事は得られなかった。そこで急遽、栃木県中小企業活性化協議会に一任し面談となった。協議会は専門家(弁護士、会計士、不動産鑑定士など)を派遣し、対策を練る。金融機関からの借入金を減額してM&Aによる再建を試みた。 M&A斡旋会社は、当社を譲受する企業を広く公募、10数社が名乗りを上げる。最終的には4社に絞り、その中から最も高く譲受した会社が引き受けることになった。バンクミーティングなどを経て金融機関の承諾を得て再出発となる。旧会社を整理するが、従業員、商品、得意先などは現状維持となる。現在は新たな社長のもとで再出発、1年経過するが売上、利益とも順調に推移している。
事例-5 自動車部品製造業の例
当社は個人事業、現在地にて自動車部品等の加工・製造業として設立、主な取引先は 県内及び首都圏など自動車部品製造業からの下請である。創業当時は旺盛な受注に恵まれ、売上高、利益額とも順調に推移するも、2000年以降は海外製造へのシフトやNC機械化などで製造単価は急減し、かなり厳しい経営状況に追い詰められてきた。
代表者は75歳、従業員は社長夫妻と娘、娘婿と他に1名の合計5名である。しかし、社長は数年前に足を患い、重いものを持てないため工場には入るものの、軽労働しかできない状態にある。また、後継者として期待した娘婿に対しては、借入金などの負債もあるため積極的に後継者に依頼することなどは遠慮がちな状態にあった。
まず、今までの経緯をヒアリング、会話の中では必ずしも廃業が目的ではなく、できれば継続していきたい気持ちが本音であることを察した。娘夫妻を呼んで継続の意思などを確認、同時に会社の財務状況を分析し、遊休資産(土地)や所有する機械、あるいは部品の在庫など把握、概算での時価総額などを伝え、会社の財務状況をありのまま伝えた。
娘夫妻にとって当社の財務状況の実態を知ったのは初めてであったが、自分達(娘夫妻)で予想したよりも軽い実態であることを知り、一時は事業継続の決断をした。その後、部品単価が安価であることから取引先(親会社)との交渉を自ら(娘婿)出向くなど、積極的な姿勢へと転換してきたが、取引先から業界の現実を突き付けられ、値上げはできない旨を伝えられた。
さらに相当額の設備投資を行わない限り部品単価を下げることは無理であると判断、再び廃業の道を選択することになった。
再建は難しいとの判断から廃業の方向で検討していたが、廃業とは具体的にどのような形であり、廃業後はどのようになってしまうのかなどは社長自身として知識はなく不安であった。しかも、本音としては破産など法的処理だけは避けたい気持ちはあった。そこで自主的廃業(ソフトランディング)という方法についても説明、しかし、この段階で自主的廃業が可能かどうかの検討までは行っていなかった。
スムーズに廃業ができれば何ら問題はないが、当社のように廃業時点で債務超過(資産を上回る負債の状態)では不安かつ心配であり、この点を明らかにしていくことが先決であった。一方、当社の資産と負債の状態から任意整理はかなり難しいものと説明するが、可能性もあることも示唆した。
一方、破産の場合についても、そのメリット、デメリット、さらに破産後の責任範囲や日常生活に対する影響などについても説明した。その上でどちらにするか判断するように要請、最終的には自己責任において結論を出すようお願いする。
意思決定に先立ち、連帯保証人(連帯保証人は社長夫妻のみ)や担保の状況(遊休資産のみ)、並びに買掛金や未払金、そして手形決済(3ヶ月先まで振り出している)の額と期日および準備できる資金と足らない金額などを把握した。これらの概要を説明、自主的廃業を選ぶには相当の覚悟と厳しい手続きや取引先等との折衝が必要であることを伝える。あとは社長の意思決定を待つことになるが、最終的に自主的廃業を選ぶことになった。
まず、廃業する日時(Xデー)を明確にしなければならず、その間の資金繰りのスムーズ化に取り組む必要がある。そのため資金繰り表の作成を依頼するものの、当社では資金繰り表を作成したことがないため、資金繰り表を持参してその作成の仕方などを教えながら、現状の把握に取り組んだ。
同時にXデーまでに準備できる現金額、そして、それまでに必要とする現金額はどの程度なのかなどを資金繰り表に沿って時系列にまとめた。
資金繰り表における入出金の状況、手形期日、受注残や受注の状況、在庫の状態などを十分に検討し、また、娘夫妻の就職先の検討などを考慮してXデーを決定した。
Xデーまでに資金繰りがショートしないよう、資金繰り表をベースに対応策を検討した。機械売却のための手続きや遊休資産(土地)の売却のための不動産業者の手配などを行った。
一方、借入先である金融機関(2行)にも廃業する旨を説明し、1行については残高が僅かなので完済は可能であるが、残りの1行についてはリスケによる少額返済に切り替えることにした。(結果的には、親戚からの借入で乗り切った。また、遊休資産についても売却が決定した)
廃業までの必要な資金は最低限で考えるが、予期せぬ出金が発生した。キューピクルの破棄に係る金額、工場の撤去費などである。また、土地売却が決まっていたが買主からキャンセルが発生、結局当初予定から2カ月以上かかって売却が成立した。