取引や債権回収に係るトラブル、事業承継など、法律問題全般にわたる悩みついて、弁護士が相談を受けアドバイスを行います。 

作成した契約書が法的に妥当であるかチェックを行うリーガルチェックは行うことはできません。

※相談者と利害が対立する方から相談を受けた場合、利益相反となるため、どちらの相談にも応じることができなくなります。

相 談 例

・取引相手から契約書にないことを要求されているが、従わなければならないのか。
・納品をしたが発注先が代金を支払わない。何とか支払わせたいがどうすればいいか。
・未払いの買掛金を一括で支払うように請求された。分割して支払えないか交渉したいがどうすればいいか。

弁護士
青井芳夫

じっくりと話を聞き、相談内容の本質を見極め、適切なアドバイスをしていきます。

弁護士
小菅拓郎

ある事象が法律問題であることの気付き、目的に適った解決方法の模索と実行、フィードバックなど、様々な形で支援ができると思います。

無料求人広告サイトの詐欺トラブル

 栃木県よろず支援拠点のコーディネーターの弁護士の青井です。

 当支援拠点では、3名の弁護士が在籍し、会社、個人事業主の皆さまの法的な相談を受けています(出勤日は事務局にご確認ください)。

以前、堂場コーディネーターが書かれた「無料求人広告サイトの詐欺トラブル」(ブログ参照)の相談は、当拠点の弁護士相談でも今も一定数あります。

このような、個人事業主、小規模会社(社長と従業員数名の規模)が契約トラブルに巻き込まれる相談が増えています。 今回は、このような状況に鑑み、無料求人広告トラブルを題材に、主として個人事業主(特に起業して間もない個人事業主)が契約に際して気を付けておく点をご紹介します。

1 無料求人広告サイトのトラブル

 事例の詳細は、堂場コーディネーターのブログを参照してください。

 概要ですが、「数週間は無料で求人広告を出します。やめたければ無料期間でやめれば良い。」と勧誘されます。

  ところが、約款や注意事項に小さく、「止める場合には無料期間中に解約の意思表示が到達しない場合には自動更新となり、既定の料金が発生する。」と書いてあります。まさか自動更新になるとは思わず、解約しないでいると無料期間の数日過ぎたところで、高額の請求書が届きます。

業者は、重要なところは説明しておらず、契約書にハンコを押したんだからと、既定の料金を払うようしつこく連絡してきます。

2 契約する前に注意する点

(1)おいしいだけの話は絶対にないこと

 まず、おいしいだけの話は絶対にありません。これが最大の注意点です。

 魅力的な話には、裏がある場合も多いことに注意してください。

(2)不安に駆られた場合も直ぐに契約せず、一呼吸おくこと

 人は、不安に駆られてしまうと、知らず知らずのうちに正常な判断ができない状態に陥ります。例えば起業して間もなくで、資金に余裕もなく、しかし人手不足で早期に求人しなければならず焦っている状況で、無料期間内でやめれば無料、キャンペーン中で申込は今日までなどと言われてしまうと、無料だからとりあえず試してみようと心理が先立ち、正常な判断ができない状況になってしまいます。

 その場で直ぐに契約することは避け、一度冷静になって、きちんと契約条件を確認し、その契約の必要性、費用対効果を見極めることが重要です。

 例えば、無料期間を前面に打ち出している場合には、どういう場合に有料になるのか、有料になった場合にはどの程度の費用が発生するのか、有料に移行しないようにはどのような手続が必要なのか、解除できる要件は何か、解除した場合にはどのような金銭的負担が生じるのか等を確認する必要があります。

(3)個人事業主には消費者契約法の適用が困難なことを認識すること

 消費者は、事業者と消費者契約を締結した場合には、消費者契約法に定める取消・無効等の保護の手段があります。契約の無効・取消を主張する場合には、消費者であれば、民法(一般法)に定める手段に加えて消費者契約法(特別法)に定める手段が可能となります(法律に定める要件を満たしていることが前提です)。会社(法人)は消費者ではありませんが、個人事業主は個人の消費者の側面と事業者の側面があります。

 消費者契約法は、「この法律において「消費者」とは、個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く)をいう。」として、個人でも事業として又は事業のために契約の当事者となる場合を消費者から除外しています(2条1項)。

 一方「この法律において「事業者」とは、法人その他の団体及び事業として又は事業のために当事者となる場合における個人をいう。」とし、個人でも事業として又は事業のために当事者となる場合における個人は事業者としています(2条2項)。

 そして、「この法律において「消費者契約」とは、消費者と事業者との間で締結される契約をいう。」としています(2条3項)。

 つまり、個人事業主が、事業として又は事業のために契約の当事者になる場合には、消費者契約法の適用がないことになります。

 消費者契約法は、事業者と消費者では持っている情報の質・量や交渉力に差があることを前提に消費者の利益を守るために制定されました。

 個人事業主が、事業として又は事業のために契約の当事者になる場合、情報の質・量、交渉力から言えば、消費者と実態は変わらない側面(特に、起業し個人事業主となって間もない場合、事業を1人のみで行っていて情報の質・量などが少ない場合など)もあるのですが、法的には消費者として消費者契約法の保護を受けることは困難であることを念頭に置く必要があります。

(4)よく書類を読むこと、説明を求めること、経緯を記録すること

 多くの問題のある事例では、相手方はきちんとした説明をしていませ ん。ところが、約款・契約書・説明書等に小さく重要なことが書かれています。話が違う、解除したいと言っても、相手方は、既に契約書に署名押印されている、きちんと書面に書いてある、口頭で説明した、解除するには契約書に書いてある残金と違約金を支払う必要があるなど言ってきます。

 よく書類を読み、説明を求め、怪しいと感じたら毅然と断る勇気が必要です。

 また、相手方とのやり取り内容は、後にトラブルになった場合に備え、経緯を記録・保存していくことをお勧めします。

(5)分割払、特にローン契約に誘導するものは注意すること

 無料求人広告の事案ではないのですが、問題のあると思われる事例では、ローン契約を支払条件としていて、中には、全く関係のない製品のローン契約の名目で代金の支払が長期間設定されているものも見受けられます。相手先会社だけでなく、ローン会社等が登場することで解約がより困難になっている印象です。

3 最大の防御は、契約前に気を付けること

 上記のように、個人事業主が事業として又は事業のために契約の当事者になった場合には、消費者契約法(特別法)の適用が困難です。

 この場合、民法(一般法)上の錯誤や公序良俗違反、場合によって詐欺を検討し、要件を満たしそうな場合には、契約の無効・取消を主張し支払拒絶していくことになると考えられます。

 弁護士が介入し、内容証明郵便を送付することで解決できる事例もあるようです。一方で、相手方でも契約書への押印を根拠に、法的手段に出てくるケースもあるようです。

 問題のある事例では、相手方はしつこく支払を迫ってきて、心身共に疲れてしまいます。弁護士を依頼する場合には、費用もかかります。

 問題のある契約から身を守る最大の防御は、契約前にいかに気を付け、問題のある契約から回避するかにあります。 堂場コーディネーターのブログ掲載後も、一定数の相談があることから、第2弾を書かせていただきました。

※本稿は、R5.9.27 スタッフブログに掲載された内容です。